映像翻訳者、野添亜寿紗さんにインタビューをさせていただきました。

野添 亜寿紗 様 (40代)

受講生インタビュー、今回は「映像翻訳講座」出身生で、吹き替え翻訳者としてデビューをされた野添亜寿紗(のぞえ・あずさ)様にお話を伺いました。翻訳ソフトを使用する字幕翻訳とはまた違う、吹き替え翻訳の魅力やそのお仕事についてなど、いろいろお伺いすることができました。

「韓国語が分からない」ことで、もっと知りたいと思えた。

(幡野)まずは韓国語学習を始めたきっかけについて教えていただけますか?

(野添さん)私にとって韓国語は、はじめて「分からない」と思った外国語だったんです。英語ではないんですよ。というのは、幼少期、5歳くらいまでですがアメリカに住んでいました。それだけでも英語のリズムや言葉の雰囲気は身についていたらしく、中学校で英語を学び始めたとき、はじめて学ぶ感覚がありませんでした。

友達が韓国にハマったのをきっかけに一緒に韓国へ行ってみたら、韓国語がまったく分からない、通じない……! 30歳を手前にしてそれを経験して、「韓国・韓国語を知りたい!」と強烈に思ったんです。私にとって、はじめて学んだ外国語が韓国語です。とても似ていて、一方で似ているのに違って、それがおもしろくて。発音もこれまで出したことのない音だったので、発音練習も楽しかったです。

(NHK「テレビでハングル」で韓国語を学びだす)

(幡野)はじめて分からないと思った外国語が韓国語だったんですね。その後、どのように学習しましたか?

(野添さん)NHK「テレビでハングル」で学んだりなど、最初はほぼ独学です。発音は直接直してもらわないといけないと思い、2年間、韓国語の入門・初級クラスに通って、その後は週に1回オンラインでプライベートレッスンやグループレッスンを受けて、会話力を養うよう努力してきました。留学できない分、毎日ラジオを聞いたり、旅行をするなら韓国!と決めて、旅先ではタクシーの運転手さんに積極的に話しかけたりと、できるだけ韓国語に触れる機会を作るようにしていました。

(ヨガのインストラクターを経験)

‘好き’を仕事にしようと、ヨガのインストラクターになったり、韓国の靴を販売しようとしたことも

(幡野)コツコツと頑張られましたね。お仕事をされながら、ということですよね? どんなお仕事をされていましたか?

(野添さん)私は「好きを仕事にすること」を人生のテーマにしていて、好きなことは伝えたくなる習性があります。それはもう、いろいろ経験しました(笑)。まず、電機メーカーで6年間働き、宣伝部にいた頃、伝えることの難しさと楽しさ、そして言葉の持つ力を知りました。そんな中ピラティスにハマり、それを伝えたくなり、通っていた教室に就職してヨガのインストラクターになりました。しかしその後また会社員に戻って、やりたいことを探して、こんどは韓国の靴のブランドにほれ込んで、日本で売ることを志したものの失敗したり……。

(韓国の靴ブランドの日本展開を目指す)

この間、「これを頑張る!」と宣言しては「だめでした」となったりと周囲に心配をかけてきました。チャレンジしながらも「なにか違う」と違和感を覚えたりもしたんです。そんな気持ちを打ち消してチャレンジして、という繰り返しだったのですが、韓国語に関しては何も迷うことなく継続できたんです。「10年続ける方法を見つけよう!」と思いました。疑いなくやりたいと思えたこと、そしてそんな仕事に出会えたのははじめてです。

とにかく、‘好き’をシゴトに、を実現させたかった!

(幡野)その気持ちになれたのは本当によかったですね。大好きな韓国語を仕事にしたいというところから、映像翻訳を選ばれた経緯を教えてください。

(野添さん)ずっと韓国語に触れていたい、いつか韓国語を使って仕事がしたい、一歩前に進みたいと模索していたところ、アイケーブリッジに出会いました。「映像翻訳講座」のホームページに、「好きをシゴトにすることを応援する」と書かれていて、韓国語だけは私の中でいちばん揺るぎない'好き'だったので、見つけたときは本当にワクワクして、ぜったい仕事に辿り着きたいと思い、映像翻訳講座の説明会に申し込みました。

(幡野)そんな思いを持たれて、いらしていただき、本当に嬉しいです。実際の「基礎クラス」「養成クラス」「演習クラス」のレッスンはどうでしたか?

(野添さん)毎回、仕事を終えて早く課題に取り組みたいと、ウキウキしながら退勤していました。字幕独特のルールがあるのが本当に面白かったです。字幕のルールは細かくて、人によっては窮屈に感じるかもしれませんが、私は興味津々でした。

「養成クラス」で吹き替え翻訳を学びますが、これがいちばん強烈で衝撃的でした。こんなに楽しい世界があるんだ!と。字幕は、視聴者のことを考えて付けますよね。しかし、吹き替えは、制作者だったり、声優さんだったり、視点がさらに増えます。たくさんのプロが集まって作品ができあがるんだと思うと恐ろしくもあり、また責任重大でやりがいもあると感じました。

「吹き替え翻訳」も、翻訳者なら原音(韓国語)が聞けることに気付いた

(幡野)そうでしたか、字幕をメインに学ぶ「映像翻訳講座」ではありますが、その中で吹き替え翻訳が最も印象的だったのですね。

(野添さん)はい。当時、とにかく韓国語を上達させたかったので、ドラマを観るときは吹き替えでなく字幕にして、なるべく原音(韓国語)を聞くようにしていました。吹き替えは関心がなく、まったく見ていませんでした。

でも講座を受けて、吹き替えを望む視聴者のニーズを知り、目から鱗(うろこ)でした。実際、「選べるなら吹き替えで観るよ!」という友人も意外と多かったです。そして、吹き替え翻訳をするにあたっては、当たり前のことなんですが、翻訳者は原音(韓国語)を聞きますよね。ということは、韓国語で作品を観られることに変わりない!と気づいたんです。

声優さんの演技に感動! 同じ映像でも、言葉ひとつで声優さんの演じるキャラクターが変わる

(幡野)なるほど、そうでしたか。「養成クラス」の吹き替えレッスンは、10回中2回程度なので、吹き替え翻訳のほんの入り口を学ぶものでした。そこで、声優さんを招いての本格的な「吹き替え翻訳講座」を開始することになったのですが、吹き替え翻訳講座について、聞かせてください。

(野添さん)私が作った台本を声優さんが読んでくれる、というのがとにかくためになりました。余談ですが、小学校のときに子供ミュージカルに出演したことがあって、でも演技が苦手でした。吹き替え翻訳にあたっては、自宅で課題に取り組んだり実際のレッスンで尺合わせをするときに、俳優になりきって演じながら訳します。大根役者だった私がですよ(笑)。そして、実際に演じてくれるのは、ものすごい良い声の声優さんたちで、それはもう、感動しました!

声優さんから直接フィードバックをいただけるのもありがたかったです。この言葉だと、こういう感情が入るから出だしが一瞬遅れるなど、役者さんならではの視点が聞けましたし、私は威圧的なキャラクターと思って台詞を書いていたのに、「野添さんの台本では丁寧な雰囲気のキャラクターとして捉えました」というフィードバックをいただいたこともあります。

中にはイメージ通りにいったものもありましたが、驚くぐらい違うものもありました。声優さんが元のドラマ通りのイメージにならないとしたら、やはり翻訳者の責任だと思うんです。映像があるから、翻訳者も声優さんも同じ映像を見ているんだから大丈夫だと思っていましたが、同じ映像でも言葉ひとつで印象が変わってしまうことに衝撃を受けました。自分の想像を超えるほどで、そこまで考えて作らないと受け渡しできないのか、声優さんの役作りに影響が出てしまうのかと責任を感じました。特に語尾などですね。また微妙な嫌味を言っているときとか、何かを匂わせているときなどは工夫して、しっかり表現できるようになりたいです。

賞を取れたら諦めずに進もうと思って臨んだ「吹き替え翻訳大会」

(幡野)言葉ひとつでそんなにも変わるものなのですね。そういえば、野添さんは2023年の韓国語講座年末イベント「吹き替え翻訳大会」で見事、最優秀賞を受賞されましたね。

(野添さん)はい。ちょうどそのとき、私は留学経験もないし、翻訳者を目指す資格があるのかと悩んでいました。でも、翻訳大会で頑張ってみて、賞を取れたら諦めずに進んでみようと思ってチャレンジしました。題材はとても難しかったのですが、最優秀賞を取れて、本当に嬉しかったです。背中をグッと押された感じでした。でも、賞を取れなくても続けていたかもしれません(笑)

吹き替え翻訳は、実績がなくてもトライアルテストが受けられた

(幡野)野添さんだったら続けられていたかもしれません! では、吹き替え翻訳のお仕事をどのように始められたか、教えてください。

(野添さん)字幕翻訳のトライアルを受けるとなると、たいてい数年の経験を求められることが多いのですが、吹き替えは学習歴があるということだけでトライアルを受けられるところが少なくなかったです。それで、私は字幕の経験や実績がなくても、吹き替え翻訳のトライアルに合格して、仕事を始めることができました。

吹き替え翻訳ができる翻訳者は字幕翻訳者に比べて圧倒的に少ないので、オファーの数が全然違い、声がかかりやすいと聞きます。吹き替え翻訳ができると、思いがけないチャンスにつながるかもしれないので、ぜひ皆さんにお勧めしたいです!

日本ドラマのト書きや、クローズドキャプションが役に立つ

(幡野)実績がなくてもトライアルを受けられる、というのはいいですね。できる人が少ないからでしょう。吹き替え翻訳のお仕事をするうえで、普段心がけていること、実践していることなどはありますか?

(野添さん)普段ドラマを観るときに、積極的に日本のドラマを観るようにしています。ただ観るのではなく、吹き替え翻訳の台本作りに役立たせるために、ト書き(※1)を表示させたり、会話口調や言い回しなど、クローズドキャプション(※2)の文字を見ながら日本語を吸収できるようにしています。こういう表現を使うんだ、などメモを取ったりもしますね。

(※1:ト書き:ドラマの台本等で、台詞以外の部分に書かれる登場人物の動作、心情、表情、背景、音響などの指示や描写 )

(※2:クローズドキャプション→セリフの文字起こしだけでなく、効果音や話者名も表示し、聴覚障害者や騒がしい環境での視聴をサポートする字幕)

合格しても仕事の声がかからない…は、よくある。アピールも大切!

(幡野)ト書きやクローズドキャプションが台本作りに役立つのですね。それでは最後に、これから映像翻訳、吹き替え翻訳を学ぼうとされる方々にメッセージをお願いします。

(野添さん)トライアルテストに合格したけれど、その後、仕事のお声がかからない、という話を聞いたことがあります。これは、発注先の仕事量の波があったり、忘れられていたり…ということもあるかもしれません。

私も吹き替え翻訳のトライアルに受かったのですが、その後音沙汰がなかったことがありました。そこで、先輩翻訳者のアドバイスを受けて、積極的にイベントや交流会に参加し、ご挨拶がてらアピールをするようにしていました。その成果があったのか、実際にオファーをいただけたこともあります。先生方もおっしゃいますが、やはり、仕事は待っていたらいけませんね。交流会に参加したり、まめに挨拶メールを送ったりなど、積極的な姿勢が必要だと思います。

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インタビューは以上です。「‘好き’を仕事にしたい」は、誰もが願うことと言っても過言ではないでしょう。いろいろな事情でそれをあきらめる人も多い中、思いを貫かれた野添さんのお姿は清々しく、「一度きりの人生、なるべくそうありたい。」と改めて思わされました。自身が翻訳し作成した台本に声優さんが息を吹き込み、その演技に視聴者の皆さんが一喜一憂する……。言葉と文化のリレー、橋渡しができるのが、映像翻訳者というお仕事ですね。野添さん、これからも頑張ってください。応援しています。お話をお聞かせくださり、どうもありがとうございました!

聞き手 アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野 泉 2026年4月