受講生インタビュー、梨花女子大学校 通訳翻訳大学院に合格された井上こころさんにご登場いただきました。
受講生インタビュー、今回は「実践通訳講座」出身生で、韓国の梨花女子大学校通訳翻訳大学院通訳学科に合格された井上こころさんにお話を伺いました。井上さんは2024年の春に晴れて入学されます。自分には(通訳者としての)センスがないのでは、と落ち込んだこともあるという井上さん、どのようにして合格を勝ち取ったのでしょうか。学院長・幡野がお話を伺いました。
EXO(エクソ)のミュージックビデオを観て、K-POPにはまる。会社員生活をしながら韓国語の学習を再開
(幡野)韓国語に興味を持ったきっかけや、どんなふうに学習をされたか教えてください。
(井上さん)会社に就職して新入社員だったころ、K-POPが好きになりました。勤務先は出版社で、主に漫画の編集を担当していました。夢中になったK-POPグループはEXO(エクソ)です。たまたまミュージックビデオを見ていて……という感じだったかと思います。そのビジュアルやダンスに衝撃を受けました。K-POPってこんなにかっこいいんだ! と思いました。
直接歌詞を理解したくて、韓国語を学び始めました。主に独学ですが、カフェレッスンも利用しました。でも、1年くらい経ち間接話法あたりで難しくなり……、ちょうどその頃、推しのスキャンダルも重なり学習を中断してしまいました。
その後、韓国語の学習からは離れていましたが、コロナ禍、韓国ドラマのネット配信を多く観るようになり、また韓国語への興味が湧き起こりました。そこで、韓国語の学習を独学で再開し、会社を辞め、1年間語学留学をしました。留学資金は仕事でなんとかためることができ、選んだのは慶熙大の語学堂でした。3級から入ったので、1年で6級まで修了することができました。
慶熙大を選んだ理由ですが、コロナ禍で家にいる時間が長くなったとき、オンラインで受けられる語学堂の授業を探していて、ちょうど慶熙大に週2~3時間受けられるプログラムがあったんです。それを受けて、授業がとても良かったのでそのままの流れで慶熙大を留学先に選びました。
「この外国人、なに言っているかわからないや」と言われ、ショック
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留学されてから苦労したこと、楽しかったことなど、何かエピソードがあれば聞かせてください。
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自分では日常会話くらいはできるつもりで留学したのですが、発音が良くないのか、話しても通じないことが多くショックを受けました。当時はコロナ禍ということもあり、韓国に行って2週間はホテルに滞在しないといけませんでした。支給されるお弁当が脂っこいものばかりなので、ホテルでの隔離が済んだあとすぐにSUBWAYへサンドイッチを買いに出かけました。
SUBWAYはパンの種類とか、入れる野菜とかいろいろ選ばないといけませんよね。しかし、ことごとく言うことが通じず、しまいには「알아서 해 주세요.(お任せします)」となってしまいました。情けなくて、せっかく来たからには会話をがんばろう!と思いましたね。あと、出入国管理局に行ったときのことです。窓口の人が何を言っているか分からず、こちらの言うことも通じず……、お互いなすすべなくシーンとなってしまったのですが、相手が一言、「この外国人、なに言っているか分からないや」とつぶやいたんです。よりによって、それだけが聞き取れました。ショックでしたね。がんばらなければ、と思いました。
猛勉強の末、模範賞をゲット!
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それはショックだったと思いますが、でもその後、きっと話せるようになった実感を得られたタイミングがあったと思います。
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はい、現地でできた友達のお家に遊びに行って、普通にその友達のお父さんお母さんと話したときにそれを感じました。ご両親がゆっくり話してくれたなどでなく、普通のスピードで会話ができたんです。4級の後半くらいだったかなと思います。
慶熙大の語学堂では学期ごとの成績優秀者に「모범상(模範賞)」が与えられます。1年の留学期間で気が緩まないように、各級で模範賞をもらうことを目標にしていました。学期末テストの前には図書館やカフェにこもって勉強したのですが、お陰で基本の文法がしっかり身についたのでよかったと思います。3級から5級で模範賞をいただくことができました。模範賞をもらうと、次の学期の教科書をもらえるので嬉しかったです。また、5級の前半でTOPIKにも挑戦しました。目標にしていたTOPIK6級がとれたことも、自信に繋がりました。
語学堂卒業後は、ウェブ小説関連の会社に就職
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その後、5級、6級と進まれて、語学堂卒業後はどうされましたか?
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語学堂に留学するときの目標は、ビジネスレベルの韓国語を習得することでした。漠然と韓国語を使える仕事ができたら良いなと思っていたんです。
留学中、アルバイトで韓国のウェブ小説の翻訳の仕事をしていました。日本に拠点のあるウェブトゥーン関連の会社だったので、日本で登録し、アルバイト代も日本の銀行口座に入りました。以前、出版社に勤務していて漫画の仕事に携わっていたのが大きかったと思います。そして、その会社にそのまま就職しました。
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留学後の就業先を心配するあまり留学に踏み出せない人もいると思いますが、それは羨ましいコースですね。その後、通訳の勉強をしようと思われたのですね?
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はい、就職も決まり帰国したのですが、まだ自分の韓国語はビジネスレベルに達していないと思っていました。TOPIK6級レベル以上のことが学べる講座を探していて、アイケーブリッジを見つけました。会社で韓国の方と話す機会が多いので、通訳の勉強をしたら良いだろうなと思ったんです。
「実践通訳講座」説明会へ。間違って受講しちゃったかな?と思うことも
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「実践通訳講座」の体験会に参加されましたね? 参加されたときの感想をお聞かせください。
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レベルチェックテストで、ある程度の分量のある文章の翻訳をしましたが、これが基本でできる人たちのクラスなんだと思ったら緊張しました。韓国の語学堂は、学生に合わせてくれるというか、そこまで厳しくないんだと思いました。それまではただ会話ができて嬉しい、教科書が読めて嬉しいという感じでしたけれど、通訳体験をしてみて、これから本当に韓国語のプロになるためのコミュニケーションが学べるんだなと、いままでと違うことが学べるんだとわかって、とても楽しみになりました。
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実際の授業はどうでしたか?
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準備クラスの受講が始まり、最初は衝撃を受けました。間違って受講してしまったかなと思いました。授業のための課題が与えられ、予習をします。準備したつもりでいても、例えば、円安という単語が文章の中に出てきたとします。すると、先生から「では、円高はどう言いますか?」と聞かれ、答えられない。
先生がどんどん類似の単語や背景知識について質問されるんです。予習をひとつとっても、ただ訳すのではなく、類似の単語や周辺知識を調べたり、どう分かりやすい表現にするかを考えたりしないといけないのに、それが分かっていなかったんですよね。ついていくのが精いっぱいでした。
この言葉が出てきたらこれも当然のように調べる、分かって当然、というのは、通訳者にとって普通のことなんだということを、先生方からの指導を通じ理解しました。プロの目線で指摘してくれるという場所は、なかなかないと思います。
通大進学を志すも、仕事との両立ができず悩む日々
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得難い環境であると思っていいただきありがとうございます。それでは、通訳翻訳大学院(以下、通大)受験を目指したいと思われたきっかけや経緯について教えてください。
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帰国後就職した会社に勤めるうちに、自分は今後も今の仕事を続けたいだろうかと悩むようになりました。前職の経験を活かしながら韓国語も使用する職場でとても恵まれた環境でしたが、より韓国語の専門性を高め、韓国語のプロとして仕事をしたいという気持ちが強くなっていきました。
今後のキャリアを考えれば、通訳者を目指してキャリア転換をするなら、少しでも早く通訳者になれる環境に身を投じなければならない。そう考えたときに通大の受験を決心しました。
でも、仕事をしながらの受験勉強は大変でした。両立ができず、授業の予習が不十分だったときがありました。調べればすぐ分かるようなことで、とんでもない日本語訳の間違いをしたとき、嵯峨山先生が「井上さんには期待していたのに失望しました」とおっしゃったんです。
自分自身が情けなく、恥ずかしくてとても落ち込みましたが、同時に「期待していた」ともおっしゃってくださったことに驚きました。衝撃半分、嬉しさ半分、という感じでした。
入試の半年前には入試の専門学院にも通い始めていて、仕事をしながら入試の準備をしているという状態について悩んでいたんです。でも、これがきっかけで「このままではだめだ」と思い、仕事を辞めて、数か月は入試の準備に専念しました。
やっと準備クラスに合格し、入試の準備に専念
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当校の授業、入試対策の学院、そしてお仕事もされ、大変でしたね…。そういえば、井上さんは準備クラスの修了テストで合格されましたが、実践クラスへは進まれませんでしたね。
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はい、本当は3ターム(1ターム=10回、3カ月)くらいで準備クラスに合格したかったのですが、4タームかかりました。それまでの修了テストの先生からのコメントでは、嵯峨山先生からは「もっと学習時間を増やすように」、朴ジャッキー先生からは「少しずつ伸びているけれど、詰めが甘い」というようなフィードバックを受けていて、その通りだとも思っていました。
準備クラスには絶対合格したくて、実践クラスは受講してみたかったですが、4ターム目で合格したときにいったんここで区切りとし、数か月、入試の準備に専念しました。
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そうでしたか、井上さんにそんな葛藤があったとは知りませんでした。入試の準備は学院の予習復習が中心かとは思いますが、ご自身で取り入れていた学習法などはありますか?
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私は朝型なんですが、朝起きてご飯を食べて、少し運動し、単語帳の復習から入りました。NAVER辞書のアプリに単語帳を作る機能があるのですが、まず初めて見る単語があれば意味を調べてそれを単語帳に登録し、単語帳のクイズ機能を使って覚えるまで繰り返し復習しました。覚えた単語は「覚えた」に登録すると、覚えていない単語のみクイズできるので便利です。覚えた単語も含めてランダムで出題することもできます。それを朝昼と勉強を開始するタイミングで毎回5分ほど繰り返しました。
心情を表す形容詞など、ニュアンスが分かりにくい単語はさらに「표준국어대사전」で調べるようにしています。
嵯峨山先生が教えてくれた勉強法も取り入れていました。KBSニュースのパダスギ(ディクテーション。聞き取って、書くこと)をして、その文章をシャドウイング。自身が音読した韓国語を録音し、その音声をまたパダスギして、その文章を見ながらサイトトランスレーション(文章を見ながら訳すこと。以下、ST)をする。このルーティーンを取り入れていました。自分の韓国語がこんなに聞きにくいのかとガッカリしたこともあります(笑)。
試験の1週間前からはメンタルを健康に保つことを心がけた
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それは鉄板の勉強法ですね。自身の韓国語を客観的に聞くのはとても良いことで、間違いなく実力が付いたと思います。それでは、試験当日のことについて聞かせてください。
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試験の1週間前からは、メンタルを健康に保つことを心掛けました。難しいことは行わず、これまで学んだ文章のSTをしたりしました。試験当日も、大学近くのカフェで復習してから試験会場に向かいました。
1日目は韓日メモリーとSTです。そこまで難しさを感じず、無難にまとめられたかなと感じ、明日もこの調子でいこうと思いました。
しかし、次の日の日韓STがとても難しかったんです。まず日本語で音読をしてから韓国語へのSTをするのですが、日本語も、どう読むんだっけ?と思うものがありました。これまでは社説やニュース文章ばかりを読んでいましたが、少しやわらかい内容というか、普段接してこなかった内容の文章だったので、戸惑いました。とにかく口から出さないといけないと思い、必死でした。
日韓STがおわったとき、試験官の先生から「어려웠죠?(難しかったでしょう)」と言われ、そんなにキツそうに訳出しをしていたんだ、これは不合格かなと思いました。
試験のあと少し雑談をしますが、試験官の先生に「韓国語の学習で何が難しかったですか?」と聞かれ、まさに今回のようなエッセイ風の文章などが難しいと答えました。すると、「これからは小説などを読むように」と言われて、はいと返事をしましたが、ああ、もうだめだと思い、最後は頭が真っ白になったまま部屋を出ました。あまりにも呆然としていて、建物の入り口が2階だったので「2階に降りるように」と言われたのですが1階に行ってしまい、係の人に怒られました(笑)。
メディアでよく見るような国際会議で通訳がしてみたい
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そうだったんですね。励ましの一言も、その心理状態だと悪い方向に考えてしまうのかもしれません。でも、見事合格。発表はどのように見ましたか?
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合否はインターネットで見ます。見るのが怖くて、画面に番号をいれて30秒くらい目が開けられませんでした。勇気を出して画面を見ると「합격을 축하합니다.(合格おめでとうございます。)」という文字が見えて、その瞬間「わっ」と声が出ました。嬉しくて椅子から飛び上がって、その後はほっとして涙が出ました。
そのとき実家にひとりでいたのですが、まず家族にLINEをしました。母が「よかったね。」とすぐ返信をくれた後「(また韓国に行くから)少し寂しくなるね。」とメッセージをくれ、胸が少しきゅっとなりました。家に戻った母が、合格の知らせにホッとして泣いている私に「あれだけ勉強したんだから合格するに決まってるよ。」と言ってくれました。会社を辞めて韓国の大学院に行く決心をしてから、私のことを穏やかに見守り応援し続けてくれた家族に本当に感謝しています。
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今後の抱負を聞かせてください。
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大学院の同期となるメンバーと知り合えたのですが、その中でも私は年齢が上の方です。もし、卒業して就職したり、フリー通訳者として活動するとして、同じ実力だったら若い方が有利なのではと思ったりもします。なので、同期の中でも負けないように、良い成績を取れるよう勉強を続けていきたいと思います。あとは、韓国語ネイティブのような発音を身に付けたいですね。
卒業後は、嵯峨山先生や朴ジャッキー先生のように、フリーでいろんな分野で通訳ができるようになりたいです。ただ、フリーになるにもその前に実績を積まないといけないと思うので、卒業したら、機会が得られれば韓国で働きたいです。インハウス(企業内通訳者)から経験を積む人が多いと聞いているので、それも視野に入れています。
目標とするジャンルですが、メディアでよく見るような国際会議に憧れます。先生方のようなトップオブトップの通訳者が担当するのだと思いますが。どんなものでも通訳できるよう、政治、外交のような題材から韓流まで、幅広く勉強していきたいです。
通大を目指す方へのメッセージ
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■「通訳者に必要なのは圧倒的な知識と語彙力である」と聞いて
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通大に進学するだなんて、夢のようなことだとか現実的でないとか、落ち込んだりしたことがありました。しかし、これは朴ジャッキー先生がおっしゃっていたことなのですが、通訳者は選ばれし者が行うとかセンスがないとできない、というものではなく、通訳者に必要なのは圧倒的な知識と語彙力であると。センスが生かされることもあるけれど、いま通訳者としての地位を築いている人は、知識と語彙力を高める努力をしている人だと。そう話されていたんです。そのとき、私は自分自身にたいしてセンスがあるという自信はありませんでしたが、努力すれば通訳者になれるのではという元気をもらうことができました。
留学したことがないとか、韓国に住んだことがないから無理なのでは等、思われる方もいるかもしれませんが、コツコツと高めていくことが大事なんだなと、自身が受験勉強をしながら思いました。もし、自信を無くしてしまう人がいたら、努力次第でできるんだと伝えたいです。
留学までの期間、実家で過ごしています。地元の同級生は結婚したり子供もいたりして、東京で働いていたころは目に入ってこなかった景色が見えてくると、いまから韓国の大学院に?なんて考えが頭をよぎったりもしました。でも、そんな迷いも一瞬でした。 通訳者になりたいと思えたこと、通大に合格したこと、国内でプロを目指す人向けの講座がまだ少ないなかTOPIK6級レベル以上のことを学べたアイケーブリッジに感謝しています。どうもありがとうございました。
インタビューは以上です。井上さんが抱えてきた葛藤を初めて聞き、よくぞ乗り越えてくれた!と喝采を浴びせたいような気持になりました。成功の秘訣は諦めないことだ、ということを改めて感じます。メディアで井上さんが通訳をされる姿をいつか見たいです。ぜひこれからも、持ち前の踏ん張りを発揮し、頑張ってください。応援しています!
2024年 1月 聞き手:アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野 泉