ロシア語講座、受講生インタビュー
受講生インタビュー、ロシア語講座でプライベートレッスンを受講されている高島登美枝さんにご登場いただきます。ピアニスト、そして大学院生という高島さんは、当校で初めてロシア語の学習を始められました。なぜ興味を持ったのか、これからの目標は……?
学習を始められて4ヶ月が過ぎた頃、お話を伺ってみました!
大学院で研究を進める中で、どうしてもロシア語の原文が見たいと思った
- なぜロシア語に興味を持たれましたか?
- 大学院の研究でどうしてもロシア語の文献を読まなければいけなくなったんです。いま、東京藝術大学の博士課程で、19世紀バレエと、19世紀のバレエ音楽を研究しています。ロシア語で書かれた文献を読みたいときがあるのですが、キリル文字が読めない!と……。英訳されている資料も割と多いので、最初は英訳されているものだけで進めようかなと思ったんですが、研究を進めれば進めるほどやはり原文が見たいと思ったり、英訳されていない文献を読みたくなったりしたんですよね。
- キリル文字から学習をし、文献を読めるようになるまでは、とても先のことように感じられはしませんでしたか?
- キリル文字がまったく読めなかったころは、インターネットの機械翻訳機能を使って、読んでみようとしたり、実際そのようにして読んでもいたんです。また、ロシア語の意味を調べるわけですから、ロシア語のタイピングをしたりもするんですが、その文字が……いったいなんだろう、という感じで、本当に時間がかかりました。
でもいまは、タイピングもできるようになりましたし、何より辞書が引けるようになったので、意味を調べるのがとても速くなりました。文法は分からないところが多いですが、いまの電子辞書は優れていて、文章を打ち込むと単語の末尾に矢印が出て、すぐそこに飛んで意味を調べられます。辞書は、小学館のプログレッシブロシア語辞典のiPhone版を使用しています。文法はまだ初歩の部分しか学んでいないので細かいニュアンスは分からないですが、それでも大体の構文が分かることで、ある程度文章の全体像が推測できるようになりました。
そして、バレエの場合、固有名詞が多いんですが、それがすぐ見分けられるようになって、そして文章の周囲に年号が書いてあると、あ、ここにはこんなことが書いてあるかな、ということも分かるようになりました。固有名詞がすぐ分かるようになったのは大きいです。
これまでまったく読めなかったものが、「ああ、そういう意味なんだ!」と分かるようになった、これが今のいちばんの学習のモチベーションになっていますね。
通勤時間はロシア語の勉強、便利なスマートフォンアプリで単語を覚えます。
- ピアニストのお仕事をされながら、大学院での研究、そしてロシア語の学習……どのようにやりくりしていらっしゃるか気になります。よくある一日のスケジュールを教えて頂けますか?
- 6時に起床して、食事、身支度を済ませたら7時半に出勤します。移動中はロシア語を勉強しますよ。スマートフォンのアプリにWordHolicというものあって、これに単語と意味を入力しておきます。このアプリにはランダムに表示してテストをする機能があり、覚えたものにはチェックを入れられますので、次回は覚えていない単語からテスト出題するように設定しておくと、苦手な単語を繰り返しテストすることができます。電車で座れず、テキストを広げられない時にも学習できるので役立っています。あとは、持ち運びが便利なNHK語学講座のテキストなどを流し読みしたりして、知らない単語があったら覚えるようにもしています。
持ち運べる教材、自宅学習用の教材を上手に使い分ける
勤務先は音楽大学にバレエコースを持つ大学などで、学生たちのレッスン稽古でピアノ伴奏を行います。余談ですが、ロシアではピアノの生演奏でバレエのレッスンを行うことはごく当たり前のことです。日本の一般的な教室はCDなどをかけることが多いですが、子供たちなんかはピアノの生演奏で雰囲気を盛り立てたりすると楽しくなったり、踊りやすくなったりするので、根付いてほしいですね…。さておきまして、午前中でこの仕事を終えたら自宅に戻ります。もちろん移動中はロシア語を勉強します!
往復の勉強時間は2時間近くになりますかね。昼食を済ませると、昼過ぎから自宅で開いているピアノ教室に生徒さんがやってきますので、指導をして、そして空き時間には自分の練習を行います。主要なバレエ曲や稽古で使う曲はたいてい経験がありますが、それでも技術のメンテナンスは必要ですし、弾いたことのない曲を依頼されたときは、みっちり練習してから稽古に臨みます。レッスンではバレエに神経を集中させないといけないので、自分の手元や目の前の楽譜に精いっぱいだと、いけないんですよ。そうこうしているうちに夜になるので、夕食を済ませて、それからの時間は大学院の研究に充てます。文献を読んだり、論文を執筆したり……。寝る前に事務的な作業などをして、夜12時には就寝します。
スターダンサーズ・バレエ団ジュニア・カンパニー・クラスの稽古でピアノを弾く高島さん
筆記体の練習は欠かさない!
- 語学学習があり、音楽があり、研究があり、すべてがそれぞれに関係していて良い影響を与え合っているのですね。時間の使い方としても、生活の充実度としても、とても理想的です。ではその中で、ロシア語学習、当校でのレッスンについて、お話を伺わせてください。
- 教科書は『ロシアへの道(Дорога в Россию)』の第一巻を使用しています。キリル文字から始めていま7課です。数字、そして形容詞を勉強しています。単語は通勤の移動時間になるべく覚えるようにしていて、授業で使っている教科書は、すきま時間にとにかく何べんも読み返しますね。研究に必要な文献を読むことが目的なので、どうしても読む練習が中心になってしまい、話す練習ができていないのが反省点です。でも、YouTubeでロシアバレエの動画を観ていると、インタビューや解説などで知っている単語が聞き取れるようになってきて、嬉しいです。授業では毎回宿題が少し出ますが、筆記体、ブロック体、どちらで書いても良いのでしょうけれど、筆記体で書くようにしています。筆記体の方が難しいですよね。読み間違えたり、書き間違えたりすることはよくあります。マンツーマンなのでそれをすぐ直してもらえるし、細かく見ていただけるので感謝しています。
高島さんの授業ノート。現地で使えるロシア語を、と筆記体を練習
- 最初から筆記体での学習を重視しようと思われていたのですか?
- はい、そうです。ロシア語学習者のコメントをSNSで見たりもするのですが、「筆記体、読めない」「筆記体、ナゾ」なんて書いてあります。そんなコメントを見ていて、筆記体をきちんと学ばなければ、と思いました。他の欧米言語にも筆記体はあるわけですが、ロシア語ほど筆記体とブロック体の乖離がありませんよね。ロシア語の筆記体は全部、и(イー)とかл(エル)に見える、というような(笑)。現地に行ったとして、ロシア人がブロック体で文字を書いてくれることはないですよね。道を尋ねて、書いてもらっても読めない、なんてことが想像つくので頑張っています。レッスンを筆記体で進められて本当に良かったと思います。
- そうですね。ロシアに行って、会話ができたらこれまた楽しそうですね。授業では会話練習をしていますか?
- はい。テキストには会話練習や、聞き取り問題も入っています。教科書に沿って進めていけば、文法だけでなく、話せて、書けて、万遍なくいろいろ網羅できる感じで充実していますね。あと、音声も手軽に聞けるんですよ。QRコードがついていて携帯でかざすと音声が聞けるんです。単語の発音のところと、リスニングですね。なので、予習、復習もしやすいですよ。
QRコードをスマートフォンで読み取れば音声がすぐ聞ける
先生もとても良い方で、日本語がお上手で、難しい文法用語なんかも日本語で説明してくださるので初歩から勉強している私にとっては、ほんとうに助かっています。
通訳さんは付きますが、言葉が分かった方がいろいろできるのに、と思った
- ありがとうございます。お話を伺っていて、そもそもなぜ大学院で19世紀バレエ、バレエ音楽を研究されるようになったのか、気になりました!お聞かせください。
- ピアニストの仕事として、先ほどちらっと申し上げたような、大学のバレエ専攻学生の授業で伴奏を担当することになりました。20年くらい前になります。私はバレエは踊れないんですけどね。そこでご一緒した指導者は英国のロイヤル・バレエ団出身の方でした。バレエにはイタリア、フランス、英国……いろんな流派があります。いろんな流派のバレエを知れば知るほど、ロシアバレエに行きつくのです。なので、ロシアバレエに対する興味や関心はずっと持ち続けていました。
ワガノワバレエ学校のワジム・シローチン先生と通訳さん
そうこうするうち、ロシアのバレエの先生とお仕事をするようになりました。この先生には通訳の方も付いていて、私は通訳さんに甘えてロシア語の勉強をしませんでしたが、数えかたとか、背中のことをスピナー(спина)というんだなとか、日本語と似ていたり、頻繁にでてくる単語は耳で覚えていました。15年くらいはこの状態が続いていましたね。
そんな中、ロシアの有名なワガノワバレエ学校の方々と一緒に仕事をするようになりました。1年に一度、夏にワガノワの方々が来日され、その講習会で、のべ半月ほど伴奏を行います。そんなときはもちろん通訳の方が付くのですが、言いたいことを伝えるのが大変なときもあり、言葉が分かった方がいろいろできるのにな、と思いました。
そんな交流の中で、「いま大学院でマリウス・プティパ(19世紀後半にロシアバレエの基礎を築いたバレエダンサー兼振付師)の研究をしていると言ったら、ワガノワの先生が「あなたはペテルブルグに来きなさい。ペテルブルグにはプティパの資料がたくさんあるから、見ないといけない。私の家に泊めてあげる。」と言われて。そこまで言われたら、(ロシア語の学習を)始めなければ!
と思ったんですよ。ペテルブルグの劇場博物館に随分資料があるようなので、見てみたいです。博物館の人は英語ができる場合が多いと思いますが、現地に行くならせめて少しロシア語で会話がしたいですし。
数々の世界的バレリーナを育て上げたワガノワの名匠、リュドミラ・コワリョーワ先生と
まずは初級会話。ロシアにも行って、研究にも打ち込みたい
- なるほど、そういう経緯だったのですね。高島さんをロシアで待つ方がたくさんいそうです。それでは最後に、これからの目標や夢を教えてください。
- まずは、初級会話ができるようになりたいです。コロナが明けるころ、個人旅行でロシアにいきたいですね。ツアーでなくて、です。現地でバレエを観たり、先生と話をしたり……。特に行きたいのは、ペテルブルグやモスクワのような文化の中心地はもちろんですが、ロシアの有名なバレエ学校にも行きたいですね。ワガノワ、モスクワバレエアカデミー、ノボシビルスク、ペルミ……、4つあるのですが、これらにはぜひ行ってみたいです。そんなふうに見聞を広げつつ、研究を続けたいです。プティパは、チャイコフスキーの三大バレエの振付をしたバレエ史上最大の振付家なんですが、彼の死後ちょうどロシア革命がおこり、東西が分かれて、彼は東(社会主義体制側)と西(資本主義体制側)で違う評価をされています。
最近になって新しい情報が出てきて、プティパの評価が変わりつつあるのですけれど、私達日本人が知っているプティパのイメージとはだいぶ違うようなんですよね。
東京藝術大学大学院の修了式。成績優秀者に与えられるアカンサス賞を受賞し、総代を務める
研究を進める中で、ロシア革命後のソビエト時代に彼がどう評価されたのかという文献にあたれるようになったのですが、ロシア語を少し読めるようになり、ずいぶん楽になりました。最終的には西側の評価と東側の評価を結び付けたい。そして彼と同時代の人々の評価を加えて、いま日本で認識されている彼の評価に新しいイメージ、姿を提示できたらいいと思っています。
インタビューを終えて
インタビューは以上です。ピアニストとしてのお仕事の傍ら大学院で革新的な研究を進め、そのための語学学習をいとわない高島さん。目標があって語学を学ぶ、というシンプルかつ地道な努力をされ、そしてそれを実際に研究に活かしているところは、まさに模範です。
高島さんのご研究は、まさに待望の研究結果となるはず。高島さんのこれまでのすべてが表現されるであろうご研究、そして博士論文を、語学学習のサポートをしながら楽しみに待ちたいと思います。
ロシアで現地のロシア人先生方とバレエ談議に花を咲かせる高島さんの姿を想像しつつ、講師・スタッフ一同、これからもロシア語レッスンのサポートをさせていただきます!
(聞き手:アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野 泉)