受講生インタビュー、梨花女子大学校 通訳翻訳大学院に合格された河野葵さんにご登場いただきました。

受講生インタビュー、今回は「実践通訳講座」出身生で、韓国の梨花女子大学校通訳翻訳大学院通訳学科に合格された河野葵さんにお話を伺いました。河野さんは2024年の春に晴れて入学されます。仕事と勉強の両立がなかなかできなかった、という河野さん、どのようにして合格を勝ち取ったのでしょうか。学院長・幡野がお話を伺いました。

きっかけは中学時代に接したK-POP。会社員生活をしながら韓国語の学習を再開

(幡野)韓国語の学習を開始したきっかけについてお聞かせください。

(河野さん)中学生のときにK-POPが大好きになり、東方神起や少女時代をよく聞いていました。韓国語の音のやわらかさや深さに惹かれました。

(中高時代に集めたK-POPのCD)

大学1年生のときに第二外国語で学習を始め、ハングルを学び、基本的な単語を知り……、でも発音変化でつまずいてしまい、前期の数か月だけで学習を断念してしまいました。

専攻は農学部です。1年生のときは田んぼに出てフィールドワークをしたりしました。フードロスの問題など社会問題について研究をしたりして、卒業後、就職しました。

(農学部時代の野外フィールドワーク)
(会社の同僚と)

就職先は、コンビニなどに配達をしている食品系の物流会社です。時間に追われとても忙しい毎日でしたが、大好きなK-POPに触れる中で、韓国語を話せるようになりたい、留学したい! という思いが沸き起こりました。


韓国語の学習を始め、働きながら週に一度、カフェなどでフリーの韓国人の先生から会話のレッスンを受けました。並行してハングル検定の勉強を独学でしましたが、仕事が忙しく、2年間の会社員生活でやっとハングル検定4級。でもこの間、がんばって留学資金を貯めました。

語学堂では3期連続、奨学金をゲット

留学はどちらに? どのように決めましたか?

弘益大の語学堂です。選んだポイントは、学生たちなどが留学生をサポートしてくれるトウミ制度が充実していたためです。会社に通いながら勉強していたので、3級からスタートすることができ、6級まで通いました。

弘益大周辺はカフェが多かったので、午前中授業を受けて、午後からカフェで留学生のお友達と勉強をしていましたね。日本人の友達もいましたし、日本人以外のいろんな国籍の留学生と勉強をしました。

あと、弘益大は、奨学金の制度が充実しているのも魅力でした。私は3級、4級、5級と奨学金をいただきました。3位以内に入ればまとまった額の金額をいただけて、上位10%に入れば10万ウォン、良いですよね。

(弘益大学語学堂6級時の発表の様子。発表しているのが河野さん)

通訳の勉強をすればスピーキング能力が伸びるのではないかと思った

語学堂修了と同時に、通訳のことを意識し始めましたか?

そうですね。この頃は通訳者になりたい、というよりは仕事で韓国語を使いたいと思っていました。自分にはスピーキング能力が足りないと思っていて、通訳の勉強をすればスピーキング能力が伸びるのではないかと思いました。

韓国外国語大学語学堂の7級に通訳翻訳を学べるコースがあることを知り(通訳翻訳大学院とは別)、そこに進もうと思ったのですが、あちらの事情で入ることができなかったんです。それで、弘益大の6級をもう一度受けることにしました。

このとき、アイケーブリッジ外語学院に通訳を学べる講座があることを知り、説明会と体験会がセットになった会に参加しました。

当校の印象はどうでしたか?

幡野先生の雰囲気がぴしっとしていて、凛としていて、語学堂の和気あいあいの雰囲気とは違う、プロとして韓国語を勉強する空間なんだなと気持ちが引き締まりました。

このときはじめて通訳体験をしたのですが、普段は韓国語で韓国語を習う環境なので、日本語に神経を遣ってきませんでした。説明会のときから日本語に対する意識が低いなと痛感して、始まった授業の中でもいつもそれは実感していました。

授業の準備のコツが分からず時間がかかったが、先生方はいつも気持ちいい回答をくれた

実践通訳講座の授業について聞かせてください。

2ターム(1ターム10回、3カ月)準備クラスに通いました。嵯峨山みな子先生の授業は日本語に徹底的に向き合う時間になりました。朴ジャッキー先生の授業もそうですが、韓国語をどうやって自然な日本語にするか、その逆についても、先生方がいつも気持ちいい回答をくれました。悩んでいたことも、ああ、こうやって訳せばいいんだ!とわかり、毎回が刺激的で楽しかったです。

授業は常に緊張していましたね。先生が厳しいという印象もありましたが、予習をきちんとしたら褒めてくれるのでモチベーションにもなりました。修了テストの時に先生がくれるコメントの中に厳しいことが書かれていても、期待しています、とも書いてくださって、また頑張ろうと思えました。

嵯峨山先生の授業は、韓国語ニュースのパダスギ(ディクテーション。聞き取ったものを書くこと)、数字の聞き取り、主に韓国語から日本語へのサイトトランスレーション(文章を見ながら声に出して訳すこと。以下、ST)をして、受講生どうし聞き合って評価し合ったりします。朴ジャッキー先生の授業は日本語から韓国語へのSTを集中的に行いました。日本語、韓国語ともに表現の幅が広がった実感があります。

(アイケーブリッジ時代の勉強資料。左が朴ジャッキー先生のST資料、右が嵯峨山先生のパダスギ課題)

授業を受ける中で、どんなことが大変でしたか?

授業に慣れるまで、予習に時間がかかりました。A4用紙2枚くらいのニュース記事を授業でSTするにあたり、例えば日本語特有の表現をどう韓国語にするかというところで、最初は調べる方法やコツが分かっていなかったんですよね。

いまはNAVERでの検索のしかたも慣れましたし、韓国人の友達に聞いたりもしています。ただ、授業の準備をするのにこだわりが強いと大変かもしれません。どこまでこだわるのかを決めるといいかなと思います。

通訳現場の体験談を聞き、通訳者になりたいという気持ちが沸き起こった

通訳翻訳大学院(以下、通大)を目指そうと思ったきっかけや理由は?

通大を受験しよう!という気持ちは、アイケーブリッジの講座に通う中で芽生えました。でも、準備クラスの1ターム目が終わったとき、嵯峨山先生との面談で、通大を受験する気持ちがありますか?と聞かれて、「いいえ」と答えた記憶があります。

このとき実践クラスへの進級テストは合格しなかったので、準備クラスの2ターム目に入ったのですが、準備クラス受講中、先生方がプロとして活躍している姿がかっこいいなと思ったんです。

通訳現場の体験談を聞くと、私も通訳者になりたい、挑戦してみたい!という気持ちが沸き起こりました。だんだんと通大、通訳者が身近に感じられてきて、自然とチャレンジしようという気持ちになりました。

受験をされるまで、どのように勉強しましたか?

韓国の語学堂に通いながら準備クラスを受講していましたが、途中、語学堂生活を終え、日本に帰国しました。実家でお世話になりながら、受験勉強を開始しました。準備クラスを2ターム終了したところで、通大受験対策をメインで行う学院に通い出しました。途中、ワーキングホリデーの制度を利用して韓国に行き、韓国に滞在しながら受験勉強をしました。

受験期は学院の予習復習をメインに行いました。その他ルーティーンとして家事やメイクをするときにポッドキャストで韓国語と日本語のニュースを聞いていました。また韓国人の友人と毎日欠かさず30分以上電話をしていたのですが、結果的に自然なイントネーションや韓国語表現の習得に役立ったと思います。

(受験期の勉強資料。左上が梨大の過去問、右下が必須表現をまとめた単語帳)

個人的に力を入れていたのは、通大を目指す韓国語ネイティブとのスタディ(勉強会)です。学院の掲示板でスタディパートナーを募ったところ、数名の方から連絡をいただきそれぞれの方と週に1回ずつ一緒に勉強していました。スタディでは音読練習を通じてお互いに発音やイントネーションをチェックしたり、STの練習をしたりしていました。

梨花女子大学の通大は筆記試験がない分、いかに自然な発音で発話できるかがポイントだと聞いていました。そのため音読練習をするときは必ず韓国語ネイティブの方に音声を録音してもらい、発音やイントネーションをネイティブ音声に近づけられるよう徹底的に練習していました。また、スタディを通じて一緒に頑張る仲間の存在を感じられたことで、諦めそうなときも乗り越えられたと思います。

授業で出てきた表現を、入試のときに使うことができた!

ドキドキの受験当日のことについて聞かせてください。

それが、アイケーブリッジの授業でSTをした内容が試験に出たんです! 文章の内容そのままというわけではなくて、朴ジャッキー先生に、その言い回しはこう訳すと良いですよ、と教えていただいたものを使うことができたのです。

授業で学んだときの題材は、アイドルのインタビューでした。メンバーがそれぞれの魅力を紹介し合うというものです。「その場の雰囲気を感じ取る」という表現が出てきて、先生が、そういうときは「캐치하다(キャッチする)」を使うと良いですよ、と教えてくださったんです。

入試の日韓ST科目で「相手の心を察する、感じ取る」という言い回しが出てきて、そこでズバリ使うことができました。運命だと思いました(笑)!

それはとても嬉しいことです! ちなみに、試験は2日間行われると聞いていますが…。

はい、そうです。2日間、一気に行われます。初日は韓日です。メモリー(聞いたことをなるべく覚えて言うこと)の出題内容は、「人間は錯覚する生き物だ。他人は失敗しても自分だけはうまくいくと思いやすい。例えば他の人が株式で大きなマイナスが出ても、自分だけはうまくいくと信じ込んで資金をつぎ込んでしまいがちだ」という内容でしたね。STは、昨年カカオデータセンターで火災があったのですが、その通信障害に関する内容でした。

2日目は日韓です。メモリーの出題内容は、「コロナ禍を経て、コロナに対応した新しい常識、ニューノーマルが生まれた。企業は人々のニーズに合わせて製品を開発し、新しい価値を提供する必要がある」という内容でした。STの内容は、「コロナ禍でオンライン会議などが増えたが、オンライン会議に出席する際にアバターキャラクターを自身の顔に見立てて出席する人が増えた。目を見ながらコミュニケーションをとる機会は減ったが、人形やキャラクターの目にも意思が宿っているものだ」という筆者の主張でした。これがとても難しかったのですが、ここで例の表現を使うことができました。

さすが、メモリーの能力がすごいですね! それはそうと、面接があると聞いていますが。

そうですね、でも、面接といえる感じではなかったように思います。1日目の試験の最後に、世間話をしました。「あなたはいま受験勉強のために韓国に住んでいるんですか?」「入試の勉強に費やした時間は?学習歴は?」など、1分にも満たない程度だったかもしれません。

試験に立ち会った面接官とそのまま会話をするので、受験生によって差が出るのかもしれません。他の受験生から「どんな本を読みましたか?」とか、「どんな通訳がしてみたい?」などを聞かれた、という話を聞いたことがあります。

試験後の感触はいかがでしたか?

2日目の日韓メモリーが終わったあとで、面接官の先生がにこっと笑ってくれたんです。それで、ちょっと印象が良いかもしれない、と思いました。次の日韓STも自信を持って終えられたので可能性はあると思って結果を待ちました。

大学院卒業後は、日本、韓国両方で通訳案内士の資格を取りたい

見事合格。本当におめでとうございます。今後の予定や豊富などを聞かせてください。

入学まではノートテイキング(通訳をするために、聞いたもののメモを取ること)の練習をしようと思います。梨花女子大の通大の入試にはノートテイキングが不要だったので。

入学したら、まずは、大学院生活を健康に終えることを念頭に置きたいです。課題の量が多く、体調を崩す人もいるようだと聞いていますので、健康第一で卒業することが目標ですね。

卒業後のことは考えていらっしゃいますか?

卒業後の夢や目標ですが、興味のある分野は観光です。日本文化を韓国に紹介したり、韓国文化を日本人観光客に伝えることもしてみたいです。どちらの国でも通訳案内士(韓国では「観光通訳案内士(관광통역안내사)」)を取りたいと思っています。

韓国に友人や家族が遊びにきたときに、コースを決めて案内する、というのがとても楽しく、将来的にそういう仕事がしてみたいと思っています。

コースは定番中の定番、という感じですが、両親を漢江(ハンガン)に連れていき、川辺でチキンを食べ、ビールを飲むということも体験してもらいましたよ(笑)。

両親がいちばんの思い出になったと言っていたのは、鍾路5街にある広蔵(クァンジャン)市場の屋台です。トッポッキを食べていたら両隣に座った韓国人のおじさんが話しかけてきてくれて、私が両親に通訳をして会話が弾み、とても喜んでもらえました。

(両親と一緒に広蔵市場へ)

現地の人と触れ合えたのはご両親にとって良い思い出になったでしょうね。最後に、通大を受ける方にアドバイスをお願いします。

私は仕事と勉強の両立がなかなかできませんでした。仕事をしなければいけないけれど、受験を目指したいと思う方がいたら、一定期間仕事に集中してお金をためて、いったん仕事をセーブして入試だけに集中する期間を持つのも戦略の一つとしてはありだと思っています。

世の中には両立している方もたくさんいますが、私は両立できずにいて、思い切って韓国語の勉強に絞って合格できました。援助してくれた親のお蔭、ということもありますが、もしそういう選択肢があれば、少し考えてみてはどうだろうと思います。

インタビューは以上です。集中して学習し、見事合格を勝ち取った河野さん。実に夢に向かって進む姿がまぶしいです。数年間、充実した大学院生活を送られますように。そして、いろんな方々に日本の魅力、韓国の魅力を伝えられる通訳者兼観光・親善大使となってください。応援しています!

(聞き手:アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野 泉)