「韓国語・字幕翻訳プログラム」受講生インタビュー、出身生のS.C.さん(以下Sさん)にご登場いただきました。

2020年7月、当クラス現役生を中心としたオンライン交流会にSさんをお招きし、インタビューを実施。字幕翻訳家を目指したきっかけや、初仕事をどうやって見つけていったかなど、興味津々なお話を伺いました。インタビュー後半には現役生を交えた質疑応答コーナーもございます。是非お読みください。

友人のYouTube動画に日本語字幕をつけてみて、興味を持った

韓国語の学習歴を教えてください

大学生の時、交換留学で韓国の大学に留学することになって、その半年ほど前から勉強を始めました。学習歴で言うと、10年くらいになると思います。とにかく韓国語を話せるようになりたくて、新しい単語を習ったら例文と一緒にノートにまとめて、そのノートを肌身離さず持ち歩いていました。渡韓から半年後に、TOPIK6級にぎりぎり合格することができました。

帰国されて、韓国関連のお仕事などはされましたか? 韓国語のブラッシュアップは?

韓国企業の日本法人に就職しました。実践的な韓国語は働きながら身につけましたね。5年務めたあとにフリーランスになりました。

早くからフリーランスになられたのですね。どのように仕事を見つけましたか?

フリーランスになりたての頃は、知り合いの会社から仕事をもらっていました。ものづくり関係の実務翻訳です。

なぜ字幕翻訳のお仕事に興味を持ちましたか?

韓国の友人のYoutube動画に日本語字幕をつけるのを手伝っていたのですが、それが楽しいと感じたことがきっかけで興味を持ちました。自己流でなく、きちんと字幕翻訳のルールを学んでみたいと思い、学校に通うことにしました。

先生や他の受講生の翻訳を見られるのが楽しかった

アイケーブリッジで学んでいて、どんな学びが印象的でしたか?

私が受講したのは、一昨年から去年の頭にかけてだったので、コロナの問題もなく、対面で教室で学んでいました。課題を提出して、それを授業で先生がチェックしてくれる、という授業でしたが、他の受講生の訳とか、先生の訳を見られるのがとても楽しかったです。「こういった訳し方があるんだ!」と勉強になりましたし、日本語の引き出しを増やさなければいけないな、と感じました。

基礎クラス10回、養成クラス10回の授業で、いろんなジャンルの映像翻訳について学びますが、印象に残っているものは何ですか? 養成クラスで吹き替え翻訳を学んだのですが、それが難しすぎて……! それが強烈に印象に残っています(笑)。

‘映像翻訳’とひとことで言っても、字幕翻訳と吹き替え翻訳は全然ちがいますよね。基礎クラスの皆さん、楽しみにしていてください(笑)。

受講されていて、「大変だったこと」そして「楽しかったこと」は何ですか?

仕事をしながら通われている方も多いと思いますが、私もフリーランスの仕事をしながら通っていたので、課題と仕事との両立が大変でした。

楽しかったことは、基礎クラスから養成クラスへと講座が進んでいくにあたって、最後のほうには「あ、もしかしたら私も仕事ができるんではないか」と、実力がついていくような感覚を得られたことですね。

……すごいです。かなり早い段階で、「いけるかも」と思われたんですね。

そうですね。授業で「ここがこう違う」と指摘してもらって、前回まちがえたところが、今回は正しくできたりしたときに、やりがいを感じました。

とても大切なことをおっしゃっています。先生が授業で指摘されたこと、教えてくださったことは是非、一回で直るようにしましょう。

字幕制作会社に履歴書を送り、トライアルテストに合格

講座修了後、どのようにお仕事を見つけましたか?

皆さん、気になるところだと思います。 講座修了後に、学校からもらった字幕制作会社のリストがあって、そこに履歴書を送りました。そこで返事をもらえた会社のトライアルを受けて、受かった会社から初仕事を受注しました。

(幡野)順調でしたね。

はい、ラッキーでした。ちょうど人材が不足していた時期だったらしく、運よく決まりました。

(幡野)タイミングも必要だと思いますが、一回送って駄目だった、とあきらめずに、いろんな情報を見て、チャレンジされると良いでしょうね。

初仕事はどんな仕事でしたか?

ドキュメンタリー番組の字幕翻訳でした。韓国のテレビ番組です。60分の映像で、納品ペースは週1本ほどでした。2ヶ月ほどですね。

(幡野)映像翻訳というとドラマ翻訳を想像されることが多いと思いますが、実はドキュメンタリーも多いようですね。

はい、ドキュメンタリーのようなものが新人に回ってきやすいという話を聞いたことがあります。スクリプト(台本)が無いものですね。聴き取りからしないといけないので。

どうしても聴き取れないときに、手伝ってくれる(聴いてもらう)人などはいますか?

聞く人はいるといいんですけれど、私の場合は、申し送り(※)で、「前後の字幕から自然な流れになるように、創作しました」と出す場合が多いです。韓国人の友人に聞くこともありますが、納期など時間の関係で聞くことができないときもありますし、ゴニョゴニョと言っていて、韓国人が聴いても分からない場合もありますので。

(※申し送り:なぜそう訳したか、理由や根拠などの説明を書いたもの)

その他、これまでどんなジャンルの翻訳を手掛けましたか?

そのドキュメンタリー番組の次は、バラエティー番組の担当をしました。スポッティング(※)の仕事もしています。

(※スポッティング-字幕の始まりと終わり、そして表示する長さを決める作業のこと)

地道にコツコツと。最終的に問われるのは日本語の表現力

字幕翻訳家、こんなところがオススメ、という点はどんなところですか?

例えば、今のようなコロナの最中、外に出られないというときに、自宅にいながらパソコン1台で仕事ができるところは良い点だと思いますし、韓国のコンテンツは、ドラマもバラエティーも面白いものが多いので、仕事をしながらクスッと笑ってしまったり、そんなところが楽しいところだなと思います。

字幕翻訳家、こんなところに気を付けて、という点はありますか?

簡単じゃない、けっこう大変、ということですかね。スポッティングして、訳を入れて、訳を付けながら調べものもして、チェックをして、納品するという……、この作業の流れは、地道にコツコツと作業をするのが得意な人が向いていますね。正確性も求められます。そういう意味では、片手間でできる仕事じゃないなと、経験してみて思います。私は一日、10時間くらい作業をすることもあり、気合が必要でした。そして、最終的には韓国語ではなく日本語の表現力が問われます。

これから学ぶ人、学んでいる人、仕事を探している人にアドバイスをお願いします

まだ駆け出しなので僭越(せんえつ)ですが、トライアルを受けて、受かるまで、あきらめないことですね。履歴書を送って反応が無くても、半年後に連絡が来たりすることもありました。自分の存在を知らせておくということが大事だなと思います。翻訳者求人情報サイトなどもチェックしていると、たまに良い案件が出ていたりすると思います。

(幡野) Sさん、ありがとうございました。私がお伺いしたいことは以上ですが、参加者の皆さん、Sさんに聞いてみたいことはありますか?

(Oさん) 基礎クラスに通っています。仕事をしながら課題をこなしているのですが、韓国語自体の勉強がおろそかになっていると感じます。Sさんは講座を受けながら、そして今でも、韓国語の実力を上げるためにどんなことをされていますか?

字幕翻訳の仕事は、話すことや書くことよりも、聞くことが大切なので、リスニングを重視していました。韓国のニュースを携帯アプリを使ってマメに聴いていました。KBSニュースやNHK Worldなどが良いと思います。

(Aさん) トライアルはどんなことをしたのですか?

字幕制作会社から5分くらいの映像ファイルがトライアルの課題として送られてきて、これに対して字幕を付けてください、というものでした。

(幡野)作業にどれくらい時間がかかりましたか?

7時間くらいです。文字情報(テロップ)の多い番組だったので、Aトラック、Bトラック(※)に字幕が必要だったのですが、両トラックに字幕を入れるのは慣れていなくて大変でした。でも、受かりたいから何べんもチェックして……。そうしたらそれくらいかかってしまいました。

(※音声とテロップが重なっている場合、字幕を同時に2枚出すことができる。 Aトラック(横下字幕)が、セリフ。Bトラック(縦右字幕)がテロップなど)

(幡野)7時間…! トライアルというと焦ってすぐ出してしまいそうですが、丁寧に翻訳をされ、何番もチェックしてだされたところはさすがです。とても良いお話を伺うことができました。

インタビューを終えて

韓国語・字幕翻訳プログラムは、2020年春、新型コロナ対策のためオンラインで開講しました。3月に修了した養成クラスの方々は、最後の数回をオンラインで実施し、会えずじまい……そんな方々も交え、今回の交流会を実施しました。

ご指導くださる戸田紗耶香先生を始めとし、出身生で字幕翻訳家として活躍するSさんにもご登場いただき、大変有意義な会となりました。交流会のあと、参加者の皆さんから「参加して良かった」「これからも頑張ろうと思った」と、嬉しいお声をたくさん頂戴しました。スペースの関係でここでご紹介できず残念です。

「簡単じゃない」ことに果敢に取り組み、成果を出していく強い意志。Sさんのお話は、「私でもできるかもしれない」というところがあった半面、「もっと頑張らなければ」と思わせられることもあったような気がします。

Sさんをはじめとする出身生の皆さん、現役生の皆さんは、海外の映像を日本の皆さんに紹介することで‘橋渡し’の役割を担おうと頑張っていらっしゃいます。そんな皆さんが諦めずに楽しくやりがいを持って映像翻訳に取り組めるよう、私もサポートさせていただきたいと思いました。

Sさん、本日はどうもありがとうございました。これからのご活躍を心よりお祈りしています!

2020年7月2日 聞き手:アイケーブリッジ外語学院 学院長 幡野