「中国語・映像翻訳講座」受講生インタビュー、出身生の河栗真由美さんにご登場いただきました。

受講生インタビュー「中国語・映像翻訳講座」、出身生の字幕翻訳家、河栗真由美さんにご登場いただきます。2020年4月期の当クラスは、新型コロナウイルス流行のため、オンラインで開講しました。そこで、8月にオンライン交流会を実施し、講師の水野衛子先生や河栗さんをお招きし、いろんなお話を伺いました。
河栗さんが字幕翻訳家になったきっかけ、どのようにお仕事を受注しているかなど、ためになるお話をたくさん伺いましたので、受講生インタビュー記事として、こちらに掲載させていただきます。

家族の海外赴任で上海へ。どこでもできる仕事がしたいと思った

(幡野)一年くらい前になりますが、当校で開いた受講生との座談会に、河栗さんに出身生としてご登場いただきました。その際、身近に感じられたお話をたくさん伺ったので、今回、またお招きしました。どうぞよろしくお願いします。 早速ですが、自己紹介をしていただいてもよろしいですか?

(河栗さん)2012年から2013年にかけて、「養成クラス」に通いました。英語の字幕翻訳の勉強はすでにしていたので、「養成クラス」から入りました。二期(※)通学して、その最後のほうから仕事を始めて7年になります。

(※字幕翻訳ソフトを扱ったことのある方、基本ルールをご存じの方は、「養成クラス」からご案内します。当クラスは作品を替えながら運営しているので、多くの方が複数期通われています)

字幕翻訳家という仕事に興味を持ったきっかけですが、私は2006年から2009年まで、上海で暮らしていました。環境的に日本のテレビが観られなかったので、歌番組をよく観ていました。それで中国の歌を好きになって、それから映画やドラマも観るようになりました。

夫が駐在員として上海に赴任し、その帯同として生活していたので、ビザの関係などで仕事をしたくても思うようにできなく、そのときのストレスを何とかしたかったんです。それで、どこでもできる仕事がしたい、字幕翻訳家になろうと思い、勉強を始めました。

そういう経緯だったんですね。中国語は上海で勉強をされたのですか?
きちんと勉強したのはそのときでしたが、会社勤めをしていた頃に趣味のような形で入門レベルの勉強をしていました。その後、ブランクがありましたけれど、上海に行ってから、大学の「漢語班」と呼ばれる外国人コースに通って本格的に学びました。

作品をまず最後まで観てから翻訳をすると良い

当校の「字幕翻訳プログラム」の「養成クラス」では、どんな学びが印象的でしたか?
以前、英語の字幕翻訳の勉強で通った学校は、バラエティやドラマなど、いろいろ混ぜて学びました。それはそれで楽しかったんですけど、「養成クラス」では一つの映画作品を最初から最後まで翻訳できたのがとても良かったです。

おさらいノート(※)をもらえるのも良かったですね。何回も読み返せますし。あと、他の方の訳を見られるのは良い経験でした。

(※「おさらいノート」とは、当校の定期講座で導入している制度で、授業終了後に講師がその日の学習の振り返りや次回の授業の宿題、予告などをメーリングリストを通じてお送りしています)

大変だったこと、楽しかったこと、際立った思い出はありますか?
いま思うと恥ずかしいことなんですけど、一週間10分程度の課題(※)……スポッティングをして、訳を付けて、という課題をこなすのが大変で、いつもバタバタしていて、きちんと作品を最後まで観ないまま課題を提出していました。

(※当時は毎週開講でしたが、現在は隔週開講です)

まず最初に、作品を最後まできちんと観てから訳すという、ごく当たり前のことができていなかったですね。映像をもらったら、スポッティングも最初に全部終わらせておくと良いのですよね。スポッティングは苦手意識のある方もいらっしゃるかもしれませんけれど、済ませておけば翻訳にかけられる時間も長くなるし……。まず最初にきちんと最後まで観ることが大切だな、と、とても思います。

目の前のことに精一杯だと、そうなってしまう可能性はありますね。意外と見落としがちなところからもしれません。出身生ならではのアドバイス、ありがとうございます。
良かったことは、仲間と出会えたことです。いまでもそのとき知り合ったクラスメートと、同じドラマ作品の翻訳をするなど一緒に仕事をすることもあります。アイケーブリッジ主催の交流会に参加できたのも楽しかったです。

翻訳者求人サイトで、未経験者OKの仕事を受注。それがスタート

講座の修了後、どのように仕事を見つけて、開始をされたか、教えてください。
正確には修了前に、幡野さんが「翻訳者ディレクトリ※)」に求人が載っていたことを教えてくれて、応募しました。ドキュメンタリーの仕事だったのですが、学習経験があれば、仕事経験がなくても大丈夫だったんです。トライアルテストに合格して、それから始めました。

(※「翻訳者ディレクトリ」は翻訳会社が求人を出したり、翻訳者が仕事を探すことのできるサイトです)

経験なしでOKというのはありがたいですね。ドキュメンタリーの翻訳だったとのことですが、最初はドキュメンタリーが多いですか?
経験がなくてもOKというのはやはり、ドキュメンタリーやバラエティが多いですね。これらの作業はセリフが多かったりと割と大変なのですが、最初はそういう仕事から始める方が多い気がします。

その場合、台本はありますか?
バラエティなどは画面に焼き付いている字幕がある場合も多いですし、ドラマの場合はほとんどスクリプトを頂くことができます。

中国大陸の現代ドラマの翻訳が増えている

昨今のコロナの影響でネット配信のドラマが活況と聞いています。お仕事をされていて、どんなお仕事が多いですか?
おっしゃるように、連続ドラマがとても多いですね。バラエティも頂いていますけれど、最近の傾向としてはドラマが増えています。いま、中国ドラマがすごく来ていると思います。中国ドラマが特集されたムック本なども出版社から出ていますよね。日本でもBSやCSで放映されているし、すごく増えているな、と思います。

台湾ドラマだけでなく、中国大陸のドラマですか?
はいそうです、大陸のものが増えています。

ドラマのジャンルはどうですか? やはり時代劇のようなものが多いですか?
これまでは時代劇が多かったですが、最近は現代物も増えていますね。

コンテンツを楽しめること、自分で時間配分ができるのが良いですね

字幕翻訳家、こんなところがお薦め、一方、こんなところに気をつけて、というようなお話をお聞かせ下さい。
お薦めは、字幕翻訳に限らずフリーランスは自分で時間配分ができることが助かりますね。あと、仕事をしながら、いろんな作品が観られるのが嬉しいです。これは私の趣味でもあるのですが、歌が好きなので、ドラマの翻訳をするときは主題歌を覚えたり、挿入歌を楽しんだり、バラエティ作品の場合は歌番組だったりすると、仕事をしながら最近の新しい歌を覚えられたりするのが良いです。いまはコロナで自粛中ですけれど、普段、家で翻訳の仕事ばかりしているので、月に一度、中国の歌が歌えるカラオケに行くことを楽しみにしているんですよ。

こんなところに気をつけて、というか、いま大変さを実感しているのは、ネット配信ドラマは30話とか、50話くらいのものもあるので、複数人数で同じドラマの翻訳を行います。自分が一話担当して、次の回を翻訳するまで、他の翻訳家の方が翻訳したものが何話も出てくるわけです。翻訳をする前にそれを観ないといけないので、それが結構大変なんですよ。それを観ていると、自分が趣味で観たいドラマが時間的に観られなかったりして、ジレンマを感じます。

なるほど。仕事のために観ないといけないドラマ……。自分で訳すわけではないけれど、観ないといけないわけですよね。
そう、観ないといけないんですよね。つい飛ばしたくなってしまうんですけど、あとで振り返ったときに、「あっ、あそこだったか! 観ておくべきだった。」なんてことがあったりして。見逃してはいけないなと思います。

最初の3年くらいは自ら積極的に仕事を探しにいった

いま字幕翻訳を学ばれている方、これからお仕事を見つけようとされている方へ、アドバイスをお願いします。
そうですね、気付いたらもう7年経っていますけれど、まだ駆け出しの気持でいます。いま仕事を途切れることなく頂けていてとてもありがたく思っていますし、そのときそのときの仕事を一生懸命やる、ということが大切だと思います。あと仕事は自分から探しに行くことが大事だと思います。

いまは求人情報を見たりすることはほとんどなくなりましたが、最初の頃は「翻訳者ディレクトリ」だったり、検索窓に、翻訳会社、映像翻訳、制作とか、キーワードを入れて会社を調べて自分から連絡を取ったり……、そういうことは最初の3年間はしていましたよ。それでなんとか繋いでこられたと思うので、仕事を見つけたいと思ったら自分から動いていただきたいなと思います。

勉強を始めたからには躊躇している暇はない、という気持ちでトライアルテストにチャレンジ

とても参考になる良いお話をありがとうございます。それでは、質疑応答の時間とさせて頂きます。

(Aさん) トライアルテストを受けられたとき、「さあ、受けよう。受けて大丈夫」と思えたきっかけや感触はありましたか? 自分はプロになれる、いける、と思えたときはありましたか?

いえ、講座を修了する前になんとなく勢いで、という感じです。自覚はないままだったかもしれませんね。勉強を始めたからにはものにするしかない、という気持ちで躊躇している暇はありませんでした。

最初は、受けさせてもらえれば受ける、という感じです。トライアルを受けさせてもらえるだけでも大変だったりするので。いつでも実施してくれるわけではないし。連絡を取ってすぐ案内してくれる会社もあれば、時期が来たら連絡しますとそのまま、半年後に連絡があったりすることもあります。結局連絡が来ないこともあります。とりあえず機会があれば全力で取り組む、という感じです。

それと、私がドキュメンタリーからドラマへ進むきっかけとなったのは三国志関連ドラマの全訳のお仕事でした。当時知り合った翻訳者さんから、字幕と吹き替え両方の翻訳の下訳(※)となる全訳をやらないかというお話をいただいたんです。当時はいきなり時代劇を担当するなんて考えてもいなかったので躊躇しました。

(※最終的に作品を翻訳する翻訳者の負担を減らすために、まず下訳を他の翻訳者が行う場合があります)

その頃、ちょうどアイケーブリッジの中国語クラス合同の交流会が開かれたんですよね。そのとき、水野衛子先生に「三国志はあまり詳しくなくて、自信がないんです。どうしましょう……」と相談したら、「やってみなさいよ」と、軽く背中を押してくださり、「どうにかなるかな?」と思って引き受けた次第です。

そう考えると、やはりあまり考えすぎないことが大事なのかもしれませんね。「大丈夫、受かります!」とは決して言えませんが、養成クラスを何回か受講されているなら、受けてみても良いのではと思います。

台湾の繁体字スクリプトは、少し取り組んでみれば、きっと慣れる

(Kさん)上海で本格的に中国語を学ばれたとのことなので、普通語だったと思いますが、その後、台湾ドラマを手掛けられたりしたときに、障害というか、意味の取り違い、発音が耳慣れてないなど、問題はありませんでしたか? 慣れるまで時間がかかったりしませんでしたか? また、台湾系の作品を扱う会社はどういうところがありますか?

台湾の作品は、発音よりも繁体字のスクリプトに慣れるのに時間がかかりました。でも日本人だったら簡体字より取っつきやすい部分もあるし、慣れるのも早いのではないでしょうか。繁体字のスクリプトは少し取り組んでみれば、きっと慣れますよ。

発音は、聞き取りにくくてもスクリプトを頼りにできます。理解できない台湾ならではの単語は、だいたい大陸の人が教えてくれます(笑)。百度(バイドゥ。中国最大の検索エンジン)に懇切丁寧に書かれていますよ。台湾独特の最近の言葉はほぼ百度で調べています。ただ、情報の質は玉石混交とも言えるので、あくまでも参考程度で。調べるときはすべてを鵜呑みにしないように、充分注意してください。

翻訳会社のリストは送りますね。台湾系の作品を多く扱う会社もあったと思います。

(Sさん)実際にお仕事をされるときは、翻訳家としてのご自身の他にチェッカーもいるのですか?

普通は翻訳会社、制作会社にチェッカーがいます。翻訳を納品すると、チェッカーのチェックバックがあります。指摘されたところや修正依頼の手直しをして、また出す、ということが最低一回はありますね。さらには翻訳会社の上の制作会社からの戻しもあることもあるし、さらにはその上の配給会社のチェックが入るときもあります。多くて3回になることもあります。
忘れた頃にチェックバックが来ることもあったりして、連続ドラマは忘れにくいのですけれど、何ヶ月も前に翻訳した1回だけのバラエティなんかは思い出すのが大変だったりします。

記憶がなくて、もう一回見たりするのは大変ですね。
はい。契約で映像はすぐ破棄することになっているし、置いたままにしておくとPCの空き容量も少なくなるので割とすぐ消しています。なので、そのときはまた映像をいただいて見返しましたね。

ポモドーロ・テクニックで実働時間をカウントし始めた

翻訳家の方は自宅で仕事をされるので、自分で区切りをつけないと、ずっと仕事をしてしまって疲弊する、なんてお話を聞きます。河栗さんはどのように工夫していますか? 生活の質を守るためのコツ、といいますか。
今年に入ってやっと実働時間を計算し始めました。もっと早くやるべきでしたけれど。ポモドーロ・テクニックという、25分仕事をしたら5分休憩する、仕事を進める上でそれがもっとも効率がよいという考え方があるのですが、それが実践できるポモドーロ・タイマーというアプリがあります。クリックをするとカウントしてくれて、時間になると音が鳴るんです。記録もできるので、何時間働いているかが分かるんです。そして気付いたことは、「意外と仕事をしている時間が少ないな」と(笑)。

えっ、すごいですね。私がいままで伺ってきたのは、「最初は特に、ものすごく時間をかけてしまう」という悩みでした。河栗さんは相当効率よくお仕事をされているんですね。
いままで「忙しい、忙しい」と思っていたんですけれど、思い込んでいるところが大きかったんだなと感じました。時間でカウントしてみるのは大事なことですね。25分ワンセット、というのはポモドーロ・テクニックの基本的な考え方ですが、人によって30分、40分などいろいろあると思います。アプリは独自の設定もできるので、自分で工夫してやってみるといいですよ。

私も仕事の効率化のためにやって見ようと思います。

週一以内の納期で、一つのドラマをなるべく多くの回、担当するほうが理解も愛着も深まる

(Yさん)ドラマ一話の納期はどれくらい取ることができますか?

急ぎの案件のときはとても短いこともありますけれど、連続ドラマを何人かで手掛けるときは、最初に自分のスケジュールを言っておいて、スケジューリングしてもらいます。会社勤めをしているような副業のかたは、10日に一本、二週に一本ということもあります。私も他の作品と掛け持ちをするときは、それくらいで相談することもありますよ。その場合は、週一に一本上げるものと、二週に一本上げるものがある、ということになりますね。ただ、二週に一本となると、当然その間に他の翻訳者さんが訳された回をたくさん観ることになり、勉強にはなりますが、どうしてもその時間は必要になります。できれば週一以内の納期で、一つのドラマをなるべく多くの回、担当するほうが理解も愛着も深まると思います。

なるほど、とてもよく分かりました。それでは、時間になりましたので、質疑応答はこれにて終了と致します。河栗さん、本日はどうもありがとうございました。この後、ブレークアウトセッションタイムとさせていただきます。3~4名ずつ、クラスをシャッフルしての自由トークです。河栗さんと皆さんで、自由にお話をされてください。

インタビューを終えて

河栗さんへのインタビューは以上となります。
どんなこともざっくばらんにお話ししてくださって、字幕翻訳家のお仕事を身近に感じられるひとときになりました。海外コンテンツを楽しみながら翻訳し、それを世に送り出し、こんどは視聴者に楽しんでもらう……これがまさに字幕翻訳家の醍醐味かもしれません。
ポモドーロ・テクニックのお話も勉強になりました。工夫しながらフリーランスのお仕事を充実させているお姿は、受講生の皆さんのお手本です。ぜひまた、お話を聞かせて下さい。
本日はどうもありがとうございました!

2020年 8月 聞き手 アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野